米中貿易戦争により幕を開けた、国家が地政学的な目的のために経済を手段として使う「地経学」の時代。
独立したグローバルなシンクタンク「アジア・パシフィック・イニシアティブ(API)」の専門家が、コロナウイルス後の国際政治と世界経済の新たな潮流の兆しをいち早く見つけ、その地政学的かつ地経学的重要性を考察し、日本の国益と戦略にとっての意味合いを、順次配信していく。

転換点となった香港問題

新型コロナウイルスの感染爆発によりヨーロッパで最も多くの感染者数と死亡者数が発生して、その対応に追われていたイギリスが、国際舞台で再びプレゼンスを示すようになった。5月28日に香港における「国家安全維持法」の制定方針が発表されたのに対し、イギリスのジョンソン政権は、「一国二制度」による香港返還を定めた1984年の英中共同宣言を覆すものであると激しく批判した。アメリカ、オーストラリア、カナダとの4カ国による共同声明を発表し、香港の自治の喪失への批判を主導した。

また、ジョンソン首相は、英国海外市民(BNO)旅券を保有する35万人の香港市民と、その申請資格を有する260万人の香港市民に対して、イギリスでの移住・市民権の付与を宣言し、さらには犯罪人引き渡し条約の停止や、中国に対する武器輸出禁止範囲を香港まで拡大する方針を次々と発表した。これは、従来のイギリスの対中政策を大きく転換する動きであった。

イギリスは、中国を発端とするCOVID-19(新型コロナウイルス感染症)の感染拡大において、世界で3番目に多い死者数(2020年7月22日現在)を出す甚大な被害を受けた。これが、国民レベルで対中警戒感が一気に高まり、中国に対する態度が一気に硬化した背景となった。実際、今年4月に行われたフランスのシンクタンク、仏政治刷新研究基金(Fondapol)による世論調査で、中国の国際社会での態度について「懸念がある」と答えた人は、2018年と比較して24ポイント上昇して7割近くにまで増えている。

従来最大の脅威とされてきたロシアを抜いて、現在では中国をイギリスにとっての最も大きな脅威とみなす意見が、最も大きくなっている。2015年の習近平中国国家主席訪英に象徴される、経済関係を中心とした英中関係の「黄金時代」は、冷却化の一途をたどっているのである。

イギリスは2015年に『国家安全保障戦略』(NSS/SDSR)を公表して以来、日本を「アジアにおける最も緊密な安全保障上のパートナー」と位置づけてきた。一方で、2015年3月11日に中国が設立するアジアインフラ投資銀行(AIIB)への参加を欧州諸国で最初に表明した事に示されるように、対中認識のギャップが日英間の潜在的な懸念材料となっていた。日本にとって、経済的利益を優先して中国に接近したイギリスのイメージがまだ鮮明に残っている。

ポスト・コロナ時代においては、台頭する中国にどのように向き合うかを共通課題とした日英対話の機会を拡大することで、日英両国間の認識の共有を大きくしていく必要がある。この対話は、準同盟関係に向けて日英安全保障協力をさらに深化させ、ルールに基づく秩序の擁護者として、アジアとヨーロッパというそれぞれの地域、インド太平洋、さらにはグローバルなレベルでの連携を拡大していく基盤を与えるであろう。

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